ねぶた 津軽弁講座

出世大太鼓、バカでっかい太鼓を前四人、後ろ四人。上から下に一人バチを叩く者、下から三人バチを叩く者、合わせて八人の優れもの達。ドン、どどっと、ドン、どどっと、ドン。
凱旋太鼓、前後合わせて六人の優れもの達。ドン、どどっと、ドン。でっかい太鼓を叩く音、音が耳の芯まで熱くなる。
ねぶたの坂上田村麻呂が廻る。跳人が跳ねる。群衆が拍手をおくり、
「わー、うわー」と叫ぶ。酒臭い息を吐きながら。
喧嘩有っての祭りの始まりだ。跳人がひたすら跳ねる。跳ね終わったら直ぐ喧嘩の準備に取り掛かる。
ギラギラと目線が誰かを探す。青森を離れて行こうとする者、ただひたすら青森にしがみつく者。ラッセラー、ラッセ、ラッセ、ラッセラー。
俺らは六人束になり、目を光らせ、鬼に金棒とはこれ如何に。四月が来ればそれぞれの道を行くのだから、それはそれで仕様が無い。
「なぁ、何年?」
「二年」
「わげな(若いな)」。
他校の高校生に尋ねる。
「なぁ、何年?」
「三年」
「あべ(ついて来い)」。
敵は七人いるのが分かる。裾(すそ)が足首を隠すように真っ赤なお腰(おこし)を履いて。俺らは桃色のお腰を履いて。七人が荒い顔で付いていく。
群衆が
「あぐばて、どさいげ(邪魔だ、何処かへ行ってくれ)」。
ねぶた囃子の笛や太鼓、手振り鉦(がね)。それを聞いた跳人達が跳ねる、それを観ている群衆。十三人の事など知らぬ存ぜぬ。
十三人ばらばらになり、喧嘩のスタートだ。
「おもへ、こすぱすね(面白い、ぐだぐだ言うな)」
「きまげる(腹が立つ)」
「じぐねな(意気地が無いな)」
「じょっぱりのずるすけだ(強情ッ張りの悪ガキだ)」
「いいきなな(いい気になるな)」
「じょっぱりだばな(意地っ張りだな)」。凄い津軽弁。喧嘩が続く。
十三人共々パンチに力が入らない。青色吐息の一人が言う。
「おったってまる、めぐせじゃ(疲れ果てたし恥ずかしい)」
「へずねし、ぬぐいし(苦しいし暑いし)」。
一人ずつ道路に倒れるように座る。敵らを見る。ついさっきまで怒りの目だったのが優しくキレイな目をしている。
一人の跳人が言う。
「おめだづ、けやぐだな(お前達仲間だよ)」
「喧嘩両成敗だな」
「あずましい(気持ちえぇ)」
「ビールかってご(ビール買って来て)」。
帯に結んであるガガシコは日本酒を呑むなら丁度良いが、ビールを呑むなら缶で良い。
缶ビールをちょっと持ち上げ、
「ガンペーすよ(乾杯しよう)」
「ガンペー」。
跳人が跳ねる。あラッセ、あラッセ、ラッセラー、ラッセラーラッセ、ラッセ、ラッセラー。
高三の短い夏が終わりを告げる。
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